前回のつづきです.
変なところで切ってしまったんですけれど,此処しか切どころが見つからなかったのでごめんなさい;
楽しんでいただけたら幸いです.
うちの花村はいつでも必死(笑)
賑やかで美味しい朝食を終えた後、菜々子ちゃんは友達の家に遊びに行くといって出掛けてしまった。
一つ屋根の下で二人きり。
今までありそうでなかなかなかったシチュエーションに緊張したのも始めだけで今はあいつの部屋にいるときと同じようなことを居間でしているだけだった。
つまり、あいつが読書をして俺が手持ち無沙汰に眺めてる構図。
甘い雰囲気とか、イチャイチャラブラブはどこに置いてきたんですかと問いただしたくなるくらい健全だ。
「なぁ、どっかいかね?」
「どっかって?」
「-………ジュネス、とか…」
「花村は毎日行ってるだろ」
「じゃあテレビん中」
「天城が家の手伝いあるから休み」
「ひーまー……」
「俺は忙しい」
「…………」
そりゃ、忙しいでしょうよ。菜々子ちゃんが遊びに行った後食器を片して、部屋の掃除もして、洗濯物洗っている間に読書だもんな。
俺はその間全く相手にされないし。寧ろ若干邪魔そうにされたし…。
夕べはあんなにいちゃこらしたのに何でこんなに普通なの。もっと恥ずかしくってぎくしゃくしちゃうとか、そーゆーのはないわけ?俺のことだって陽介、陽介てあんなにかわいい声で呼んで……ん? ……あれ?
「ちょ、花村何するんだ。もうちょっとで勇気が…」
ソファに座って読んでいた本を取り上げる。表紙には『漢、それはエターナル』と書いてあった。何を読んでいるかと思えば…。なんでも男らしさを得るためのHow to本らしいのだが、お前にそんなもん必要ないだろ。
「こんなん俺がいないときにいくらでも読めんだろーが!」
「それが中々時間が取れなくて、勇気が上がらないんだよ」
勇気ってなんだよ。
「あ、今馬鹿にしただろ。あのなあ花村」
「ようすけ」
「知ってる」
「さっきは名前でよんでたじゃん」
そう、自分のこととかでぐるぐるしてて軽く流しちゃったけど朝食の時は陽介て、名前で呼んでくれていた。
いや、あれはこいつがさらっと言いすぎたのも悪い。何の違和感もなく言い慣れているようにいうものだから、気付かなかった。
真正面に陣取って、小さな変化も見逃さないようににじり寄る。あいつといえば不機嫌そうな顔をして「気付いてたのか」と怒っているのか呆れているのかよくわからない反応を返した。
「さっき気付いた」
「そのまま気付かなければ良かったのに。そんなことはいいから本返せ」
伸びてきた腕を避けて本を後ろに隠す。白い腕は空を切り所在無さげに降ろされた。
「なあ、」
猫撫で声を出しながら腕を取り体を寄せる。ソファの下から見上げるように顔を覗き込むと不機嫌そうに睨まれた。
「なに」
「名前で読んでよ」
「やだ」
「なんで!」
「なんでも。花村だって俺のこと名前でよんだことないじゃん」
「う……、それいいますか…」
俺はお前と違って純情ボーイだから、ほいほい名前でなんて呼べねんだよ! 好きな人の苗字でさえいっぱいいっぱいなの、知ってるくせに!
「ずりぃぞ!」
「狡いのはどっちだよ。対等でありたいていったのはどこの誰でしたっけ?」
「ぐっ……」
それを持ち出してきますか!
「さっきから痛いとこつきすぎだって!」
あなたの目の前にいる花村陽介くんですけれども!
「それだけ花村の言い分に穴があるって事だろ」
「あーもーっ」
口でこいつに勝てるわけない。どうやったって最後まで冷静な方つが勝つに決まってんだから。だったら俺が自分の言い分を通す方法は一つしかないじゃんか。
「いいから名前で呼べー!」
強行突破。
「名前で読んだげてくださいお願いします! 俺はまだ無理でもいつか絶対呼べるようになっから! 俺、お前に名前で呼んでもらいたいんだよ。お前基本苗字呼びだろ、だからその……なんつーか、俺もお前の特別になれたって思えるっつーか……お前そーゆーのあんま外にださねーから時々本とに俺のこと好きなんかなとか思うし……。いや、お前のこと信用してないとかじゃないんだけど」
もう必死。名前一つで必死すぎんだろ、俺。でもしゃーねーじゃん、これ逃したら一生よんでくれそうにないんだから。
「………」
あいつといえば格好悪いくらい必死な俺を笑うでもなく驚いたように見下ろして、くすみのない灰色の瞳に情けない顔をした俺が映ってる。今更だけど距離が近い。キスできそう。否定するようなことを言ったら口を塞いでやる。
「-……なんかいえよ」
数秒経ってもそれは変わらず沈黙だけが二人の間に降りて。
我慢できなくなって口を開いたのは俺の方だった。
To be continued...
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