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2008.08.18 Mon 「 おとまりⅠ:花主(P4)P4 長編
短編(片思い篇)から長編(両思い篇)にシフトチェンジのP4です.
それでも花→主な感じが抜けるわけでもなく,両思いなんだろうか…と思い悩む花村を書いていけたらいいと思います.

そしてこれは朝チュンP4篇的なお話になっていますので,苦手な方はご注意を.
長編なので続きものとなっていますが,楽しんでいただけたら幸いです.




朝起きることも、一番最初に考えることも同じなのに。
隣にある体温。灰色の髪、長いまつげ。自分とは別の愛おしい存在が隣にいる。
たったそれだけで素直に、何の疑いもなく幸福だと、そう思う。
新しい朝が来た。
世界は優しく、光に満ちている。
 
おとまりⅠ
 
「菜々子ちゃんおはよ」
疲れているだろうから、綺麗な顔をして眠っている相棒はそのまま眠らせてあげることにして。
あのまま起きるまで無防備な、俺しか知らないあいつの寝顔を堪能する選択肢も捨て難かったけど、目を醒ましたときに腹が減ってるだろうからなにか用意してやったほうがいいかもとか考えながら一階へと降りたら菜々子ちゃんがキッチンにたって朝食の準備をしているところだった。
ジュネスのお兄ちゃんおはよう! と元気いっぱいに挨拶をして小さい体には大きいフライパンから、目玉焼きを皿に載せていく。まごついているが危なかっしいわけではない。どちらかというと手慣れてる感じ。
「菜々子ちゃん料理できるんだ?」
「朝ごはんはお兄ちゃんが来る前から菜々子の仕事だよ」
「偉いね。俺なんか全然ダメで……あーっと、その…なんか手伝うことある?」
「ううん、ないよ。座ってて、お客さんは座って朝ごはんができるのまってるんだよ」
にっこり笑って居間に促される。
よく出来た子だ…てかいい子だ。
妬けるほどあいつが菜々子ちゃんを溺愛する気持ちもわかる。
手伝おうかといったものの、実際何をやればいいのかわからない俺は大人しく居間のソファに座ってせっせと朝食の準備をしている菜々子ちゃんを見守ることにした。
見守るたって、ガスの火は消えてさっき元栓を閉めていたし、包丁は始めから出されてないから本当に見ているだけなんだけれど。
トーストの焼ける音を聞きながら堂島家は朝はパン派なわけね、と新な発見。
みんなが知らないあいつの顔をまた一つ知ることが出来て、ヤバイ顔が緩む。
「できたっ! ジュネスのお兄ちゃん、お兄ちゃんは?」
「-……あーっと、寝てる…かな……?」
あられもない姿で。そうしたのは俺だけど。
「寝てるの? なら起こしてこないと!」
「え? ちょ…、ちょっと菜々子ちゃんそれ待ったぁ!」
「?」
キッチンから真っ直ぐに階段を駆け上がろうとした菜々子ちゃんを慌てて止める。ゆったりと座って寛いでいる場合じゃなくなった。
マズイ。あれはマズイ。
なんか色々教育上よろしくない気がする。そうでなくてもこのまま菜々子ちゃんを行かせてしまったら後でめちゃくちゃ怒られた末に絶交だとか言われかねない。
「どうして?」
菜々子ちゃんは止められた理由がわからないといったようにキョトンとた顔で俺を見上げてくる。
そうだよね、わかんないよね。俺もなんて説明すればいいのかわかんないよ。
あわあわしながら頭だけはフル回転させてなんとか理解してもらえるような理由を考えるけど考えれば考えるほどまともな言い訳が思い付かない。
この心情や状況はきっと濃厚なキスシーンの出る洋画を見せてあたふたする親のそれだ。
物分かりの悪いガキは聞くんだ。
「何で消しちゃったの?」
いたたまれないからだ!
ごめん父ちゃん、母ちゃん、俺漸くあの時のあなたたちの気持ちがわかりました。
「えっとー…それは、そのー……。き、昨日遅くまで話し込んじゃったからさ、ほら俺泊まるの初めてだし、なんかテンションあがっちゃって」
あははははー、なんつって。
なんて当たり障りのない返答。でもごめんこれが限界。
「でも朝ごはん…」
菜々子ちゃんはしゅんとして自分の作った朝食に視線を向けた。
物分かりのいい子だから何も言わないけれど、視線が空気が大好きな人と一緒に食べたかったと言っている。それは俺も同じだからよくわかる。自分が一生懸命作ったものを美味しいと柔らかく笑いながら言ってもらいたい気持ちに大人も子供もない。
菜々子ちゃんを我慢させちゃいけない、でもあいつも寝かせてやりたい。どっちか選ばなきゃならなくてどちらも選べない俺は宙ぶらりんのまま言葉を失ってしまった。
こんなとき、誰に向かって何を言えばいいのかわからない。
「-………二人ともなにやってるの?」
重い沈黙の渦の中にいた俺と菜々子ちゃんの頭上から寝起きなんかとは程遠い、何時も通りの落ち着いた声が降って来た。
はっとして顔を上げる。それは菜々子ちゃんも一緒だったようで「表情からタイミング、角度までシンクロしてた。兄弟みたい」と私服に着替えていたあいつは楽しそうにくすくす笑った。
トントントンと階段を降りて止まる。
「で、なんの渋滞?」
菜々子ちゃんの頭を撫でながら聞く。
「さあ?」
俺は首を傾げるしかない。
「お、お兄ちゃん、おはよう! あのね、朝ごはんできてるよ!」
「うん、お早う。いい匂いがしてたからお腹が空いちゃって。-……あぁ、呼びに来てくれる途中だった? 遅くなってごめん」
「ううん、いいの。それよりもはやくたべよう! ジュネスのお兄ちゃんもはやくはやく!」
小さな手があいつの綺麗な、でも節くれだっている手を引く。
一気に色づき軽くなる空気。あいつがいないときでもこの家の居心地の良さはかわらないけど、いるのといないのでは雰囲気の色が違う。
こいつが持っている色なんて髪の灰色と肌の白さくらいのものなのに。花が開いたようにぱっと明るくなるのは何でだろうと堂島兄弟を眺めてはっとした。
さっきまでしゅんとしていた菜々子ちゃんが笑ってる。俺はこんな風に笑わせることなんか出来なかったけど、あいつが特別なにかしたわけじゃないけど,楽しそうに笑ってる。
それが,色になる。
やっぱすげーわ、お前。
こういうとき、敵わないと思う。対等でありたいのにあいつに出来ることが多すぎて俺にできないことが多すぎてなかなか追いつけない。
「陽介もこいよ」
ぐいぐい引っ張られるままになっていたあいつが俺を呼ぶ。
「ん」
「腹が減りすぎてろくなこと考えてないな」
「こう見えて悩み多きお年頃なんでね」
追い掛ける方は必死なんですよ。追い掛けられる方がいつか自分の手の届かない場所に行っちゃうんじゃないかって引き止めたくて、手元に置いておきたいのにどんどん進んでいっちゃうから。
「陽介はごちゃごちゃしすぎるんだよ、頭いいってのも考えもんだな」
俺の悩みなんて御見通しですみたいな顔をして椅子に座り、隣の席をとんとんと叩く。
「とりあえず、今陽介がすることは此処に座って菜々子の作った旨くてあったかい朝食を一緒に食べること。なんか文句ある?」
「ないデス」
「ならよかった。ほら来いよ。堂島家の基本は家族揃ってご飯を食べる、だ」
「なんだよそれ。俺は花村さん家の陽介くんだっての」
待ってなんてくれやしない。
待ってくれなんて格好悪すぎていえない。
あいつはあいつで先に行ってしまうけど、でも不安でどうしようもなくなったときにはこうやって引っ張りあげて、隣にいてもいいんだと言ってくれる。
それだけで安心する俺はなんて単純で馬鹿なんだろう。
選択権なんてない、元からその椅子以外の場所に座るつもりも毛頭ないあいつの隣に腰掛けると嬉しそうに笑うから俺もつられてへにゃりと笑った。
上がって落ちて上がるテンション。俺の感情の起伏には今の所全部お前が関わってる。お前を思って嬉しくなったり楽しくなったりして、お前を思って不安になったり怖くなったりもするけれど、いつかはそんなこともなくなってお前を支えてあげられるようなそんな男になりたい。
いただきますと律義にいってから菜々子ちゃんがトーストをかじって、俺達の会話をまとめるように言った。
「なら今日は堂島陽介だね、ジュネスのお兄ちゃん」
その瞬間、俺は飲んでいた牛乳を吐き出しそうになって、あいつは目玉焼きを喉に詰まらせていた。
まだまだ先は遠そうだ。

To be continued...
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