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前回の続きのお話です.
*この回からオリキャラが本格的に出張ってくるので苦手な方はご注意を.
手術室のランプが消えた.
祈るように組んでいた両手から顔を上げる.
目の前の扉が重苦しくゆったりと開き,租界一といわれている医師が表情の読めない顔をはりつけたまま出てきた.
銃弾1発が腹部を貫通した.
当たり所が悪ければ死に直結する場所だ.
だから気が気じゃない.
大丈夫だと思う反面,ダメかもしれないとささやく声がする.
それを早く払拭してしまいたくて,医師の言葉を待った.
Let the chips fall where they may. 02
医師はゼロの仮面を被ったままのルルーシュを見て,息を呑む.
マスクに覆われた顔面の中,僅かに覗いている澄んだブルーの瞳にはどう贔屓目に見ても好意の色はなかった.
黒の騎士団の制服を着ているライを目にしたときも同様の瞳をしていた.
嫌悪.
恐怖.
憤慨.
憎しみ.
恐らくこの医師,この病院には黒の騎士団の手によって傷つけられた兵士が五万と運び込まれ,命を落としていったのだろう.
それが黒の騎士団の行ってきたことによる結果だ.
甘んじて受け入れよう.その覚悟はとうの昔に出来ている.
だが,失いたくない命が腕の中で消えかけようとしている.
なりふり構ってられない状態だった.
「団員が撃たれた,治療してやってほしい」
ガウェインから飛び降り,血まみれのライを抱えたまま病院へ足を踏み入れたとき事前の連絡を受けて出迎えていた医師や看護士たちは想像も寄らない人物の訪問に動揺を隠せていなかった.
あらかさまな戸惑い.
皆が皆指示をあおるように白衣に身を包んだ医師を見た.
医師は腕の中にあるライを一瞥した後,ゼロを射抜く.
瞳が揺れ,口が開くまでの数秒間がとてつもなく長く感じられた.
もし拒否の言葉が続かれるようならばギアスを使うことも憚らない殺気を込めた視線を医師に向けていると,医師は隠すこともなく眉間に皺をよせた.
「私は黒の騎士団が嫌いでね.生粋のブリタニア人なんだ.それに君は理解しているのか,君の行っていることの意味を」
「貴様と議論している暇はない! ライが死にそうなんだ! 死なせたくない! 頼む…!」
「……………黒の騎士団のゼロが私に頭を下げる日が来るとは…これはこれは.冷血無常といわれている男でも人として最低の良心は残っているようだ.それともその少年がそれほど大事なのか.婦長」
「オペの準備はできております」
「こちらに来なさい.最善を尽くしてあげよう.命にイレブンもブリタニアもないからね.ただ,黒の騎士団というのが解せないが……私も医師だ.私情を挟むのはよそう」
そこから察することのできる答えは一つ.
おそらく,この医師は,大切なものの命を黒の騎士団の手によって失った人なのだろう.
恋人か,妻か,両親か,はたまた子どもなのか.
その対象は計り知れないが,数少ない情報の中でそれだけは理解できた.
「それで,ライは……」
待ちきれず,話を促す声は恐怖で震えていた.
情けない.
情けないが,どうしようもない.
ギアスの暴走が生んだ結果.己の行動のいくつく先.
また俺は大切なものを守れずに失うことになるのか.
王の力を手に入れても,黒の騎士団が大きくなっても守りたいものを守れないのでは意味がない.
「近距離で打たれていたから銃弾も貫通していた.避けたのか,たまたまたなのか臓器の損傷もない.手術は成功したよ.じきに目を覚ますだろう」
医師の背後にある扉から,白に包まれたライがベッドに横たわったまま出てきた.点滴や包帯が垣間見え,その姿は痛々しくあったが,数時間前に比べると呼吸もしっかりと安定しているように見える.
医師の言葉だけではなく,目でライが無事であることを確認すると全身から力が抜けていくのを感じた.
生きている.
死ななかった.
母さんのようにはならなかった.
「……感謝………する……」
脇を通り過ぎ,病室へと運ばれるライを視線で追いながら気づけば例を言っていた.
医師はそんなゼロを横目で一瞬見た後,何事もなかったようにライを見送る.
「感謝ならあの少年にするんだな.彼が彼でなかったら追い返していた」
「…………」
「彼は良く似ている」
「誰に?」
「………….それよりも,病室についていてやるといい.目が覚めたとき一人だと心細いものだ.それと一人部屋を用意させた.ゼロが病室に鎮座されていると周りの患者に迷惑がかかるからな」
「助かる.請求の倍の値を払わせよう」
「私は貴様のそういうところが嫌いだ.虫唾が走る」
瞬間,脊髄から脳に振動が貫いた.
背中が壁に押し当てられていることに気づいたのは,胸倉をつかまれ光のちらつく視界に医師の顔広がったためだった.
ギアスを使うには絶好のタイミングである.
だが,出来なかった.
恐怖したわけじゃない.
医師の迫力に負けたわけでもない.
ただ,激しい怒りの奥に深い悲しみを見つけてしまった.
「…………っ」
医師は暫くゼロを睨みつけると,捨てるように手を放し廊下を歩いていった.足音が小さくなり,それが聞こえなくなる刹那,声が響く.
「彼は責任を持って私が治療する.だが,貴様にはここに足を踏み入れてもらいたくない」
「…………わかった.民間人に私の代わりを頼むことにしよう」
「そうしてくれ.最も貴様に民間人とのパイプがあるとは思えないけどね」
言葉を残し,医師は去った.
取り残されたゼロは喉元を抑える.
熱を持ったそれは熱く,背中よりも酷く痛んだ.
To be continued...