P4はお礼企画カテゴリーがないので短編の方に.
短編となっておりますが,長いです.
花→主+完二 的な夏祭り.
あのまま3人で取り残されあとどうなったかな? というようなお話です.
作品が少なくて本当に申し訳ないのですが,お越し下さった皆様にできる限りの感謝が伝わりますように.
ありがとうございました.
男だけの祭りなんて華が無くてつまらない.
だってそうだろ?
あんな人ごみの中,何を目的として行くかなんて決まってる.
浴衣を着た女の子を見に行くため.
なかには花より団子の奴もいるけど,健全な男子高校生だったら断然団子よりも花だ.
細くて白い項を見ることができたら最高.
野郎どもは好みの浴衣美人を探しながらフランクフルトを食ったり射的に勤しんだりする.
とにもかくにも,1に浴衣2に浴衣だ.
浴衣がないと祭りは始まらない.
夏祭り-花主+完二篇-
浴衣美人たちをクマに独り占めされ当ても無く立ち尽くす俺,相棒,そして完二.
「なぁ,俺らこれからどーするよ」
まさかこのメンバーで祭りを楽しもうとかって流れになるんじゃねーよな?
折角の祭りの夜を野郎三人で回るとかさぶっ,マジありえねーだろ.
それなら家にいて,テレビ見ながらゴロゴロしているほうがまだましと思わないか?
だから,な? 完二.
とりあえず,お前は帰れ.
邪魔者が率先して退散してくれた今,残るはお前だけなんだ!
一心不乱に焼きそばをむさぼり喰ってる後輩に邪念をこめた視線を向けるけど,全くといっていいほど気づく気配は無い.
そういえば,こいつ自分に向けられる人の感情に鈍いところがあるんだっけ.
無心の後輩に敵意を向けるのも馬鹿らしくなって肩の力を抜きながらあいつを盗み見てみれば,俺等なんか目に入っていない様子で後ろばっか気にして振り返ってる.
祭りというのに一番ラフな私服を着て,持っているものといったらケツポケに入っている財布くらい.風情もなにもないのは俺も同じだけど,提燈の赤い光とかが灰色を朱色に染めてそれだけでなんだかいつもと違う雰囲気を持っていた.
俺みたいに自己主張の激しい髪も瞳もしてないから,周りのちょっとした変化にも柔軟に対応して溶け込める容姿は得だなと思う.
何時も見えてるはずの鎖骨のラインが二割増しでエロいのは惚れた欲目だけではないだろう.
なんつーか……あんまり見てると疚しいことばかりを考えそうな自分がいて,強制的に視線を外した.
祭りと言えば浴衣だけど,こいつだけは着てきちゃダメだ.絶対似合うだろうし,見てみたい気もするけど俺の理性がもつ自信がない.
頭の中から白い映像を振り払おうと,数時間前の学校での出来事を思い出す.
SHRが終わった直ぐ後だったように思う.その日一日どう切り出そうか,切り出したととしても何度も口ごもって結局いえなかった台詞を里中の奴が躊躇いも無く言い放ったのは.
「ねぇねぇ,近くでお祭りがあるんだってさ.夏祭り.花村も行ったことないんじゃん? 皆で一緒に行かない?」
「っ! 里中,お前!」
「? なによ?」
「え,あー,いや……なんでもない,けど……」
「急に怒鳴んないでよ.びっくりするじゃん.それよりも花村はちゃんとクマくんにも声かけとくんだよ.完二くんたちには私等が伝えに行くからさ」
「おー………」
“みんなで,いっしょに”
脱力しながらも,それも悪くないかもしれないとどこかで安心した自分がいる.
これで確実にあいつと祭りを楽しむことができる.
二人きりというのが一番だけれど,今日一日かけて誘うことのできなかった俺が,残り数時間でどうにかできるとも思えなかったし,多分,俺が誘っても結果は同じことになってたんじゃないかと思う.
「お祭りか……なら,皆誘って行くか」
そんな台詞があいつの口から出るのが目に浮かぶから,それを聞きたくない俺は誘えずにぐずぐずしてたんだ.
リーダーたるもの誰かを特別扱いしちゃならない.あいつがリーダーである以上,俺が独占するわけにはいかない.
それはわかってる.ちゃんと.
あいつのこと好きだと,大事だと,できるだけ長く一緒にいたいと思う感情の根源に差異はあってもきっと多分皆同じなのも知ってる.
だから仲間の後ろを歩くお前の隣に並んで歩けたらそれで良しとしようと思ってた.
我がままは言わない,けど相棒としてそのくらいは許されるんじゃねーかなとか期待しながら来てみれば,現実は意外にも俺の望みを叶えてくれるような形へ変化しつつある.
こういうのを棚からぼた餅つーんだっけ?
何にせよチャンスには変わりない.なんとかしてこの機会を逃さないようにしねーと.
けど,まだまだ祭りを堪能したい俺が「解散すっか?」と言えるわけもなく(あいつに変に乗っかられたら本当にそのまま解散しちまいそうだし),だからといって「完二帰れよ」と直球ストレートを投げることもできず(だってやっぱ怖ぇじゃんよ),結局のところぎりぎりしながら完二の出方を待つしかなかった.
「どーするつったって……どうします?」
屋台の焼きそば(2個目)を食いながら俺のパスを受け取った完二は視線と共にあいつへアシスト.
完二らしい判断だけど,それはちょっとまずい.
だって,こいつって俺等よりも……
「そうだな…男だけでまわるってのもつまらな」
まーったまったまったまった!
とんでもないこと言い出しそうになるあいつを緊急停止させるように上から声をかぶせる.
いきなり退場とかはマジやめて.
「んなことねーって! 俺も此処の祭り始めてだからさ,色々見て周りてーし! 折角来たんだし,勿体ねーって!」
さっきから菜々子ちゃんと堂島さんが行った場所を気にしてるみたいだけどさ,絶対退屈させねーから!
優先順位1位の菜々子ちゃんと一緒に周りたいってのもわかるけど! それは俺だって同じなわけで!
「そう?」
やや戸惑いながらも俺の勢いに気負わされたように目を丸くさせる相棒に「そうだよ!」と追い討ちをかける.
祭りの夜だということをこいつはわかっているんだろうか.
あまりにも普通の反応すぎて,楽しんでいるのかつまらないのかさえいまいちよくわからない.表情が読めないのは今に始まったことじゃないけど.
「俺よりも花村はどうしたいんだよ」
「え,俺?」
ゴール前で突然パスを出されたフォワードの気分だった.目が点になって出されたボールをどう捌けばいいのかわからない.
お前がシュートするんじゃないのかよ.
なのに,あいつは当然のことを聞いでるだけだとでもいうような顔をして淡々と言葉を紡ぐ.
「俺はどっちでもいいんだ.田舎のこじんまりとしたお祭りは始めてだし結構楽しい.けど,花村は女子がいないと祭りなんて意味ないんじゃないのか? 浴衣について熱く語ってたよな?」
「あ」
「祭りには浴衣着た女子を見るために来るんだっけ?」
「あー……確かにそんなようなこと言ってましたっけね」
「う……」
完二てめぇ,余計なちゃちゃ入れてんじゃねーよ.
「浴衣を着てないしかも男が雁首そろえてても花村はつまんないんじゃないかと思ったんだけど」
痛いところを突かれて何もいえなくなる.
全く興味がないかのように「ふーん」「へぇ」と軽く相槌を打ってたのにしっかりと聞いてたこいつらが憎らしい.
確かに言った.
里中たちが来る前に浴衣についてのすばらしさ,見るべきポイントを切々と二人に披露したのは他でもない俺だ.
健全な男子だったら普通だろ? 好きな相手が男だといっても,俺だって基本的には女の子が好きだ.
でもそれとこれとは別問題なわけで.浴衣美人より好きな相手と一緒にいたいのに理由なんて無くて.
俺はただ,お前と回りたいだけなんだ.と素直に言えればいいのだけどそんなカミングアウト,二人だけのときならまだしも(いや,無理だけど)完二もいる往来のど真ん中で言えるわけ無い.
悶々と悩んでいるのが顔に出てたのか,そういったところだけは妙に聡いあいつが困ったようにため息をついて
ポン
俺の頭にひんやりとした手のひらをのせた.
ポンポン
撫でてるっていうよりも励ましてる感じの強いその行為の上で,のんびりとした声が降りてくる.
「何か喰うか」
「あ,いっすね,それ.まだ食い足りないところだったんすよ.あと,焼きとうもろこしとイカ焼きも食わねーと.先輩なんか驕ってくださいよ.俺買いに行くんで」
「完二はさっき焼きそば食べただろ」
「あんなんで腹ぁ膨れないっすよ.先輩等はもちっと食ったほうがいんじゃないっすか?」
「俺は別に食が細いわけではないんだけどな.これでも愛家の雨の日メニュー制覇したことあるんだよ?」
「まじっすか! やっぱ先輩はすげー漢っすね! 俺ぁ,もちっとのところで時間切れになっちまうんすよ」
「本,読んでるからね」
「え? 本読んだらあれ喰えるようになるんすか…?」
「頭使いながら食べてるってことだよ」
「は…はぁ…….先輩はすげぇすね」
おいおいおいおい,ちょっと待て待て.
人の髪をぐちゃぐちゃにかき回しながらなに和やかに二人で勝手に話し進めてんの? てかこれどんな状況? これからどうなるの?
あいつに触られてることの嬉しさで固まって動けなくなってたけど,このまま行くと….
「てことで花村先輩.もうちょい楽しんでから帰りましょーや.煩い女共なんていなくても俺らだけで楽しくやれますって.とりあえず,アレ食べましょうアレ」
「お前は食い気しかねーのかよ!」
てか今,俺らって,俺らって言った!?
「アレ?」
お前もナチュラルに流してんじゃねー!
「つーか,いつまで子供扱いしてんだよ!」
「え? ああ,悪い.我がままの通らない子供みたいな顔してたから,つい」
くすくす笑ってそれでもどかされない手.
あぁ,髪がどんどん鳥の巣になっていくのに払いのけられないのは,自分からこいつの手を拒絶したくないからだ.
それに,なんていうか力加減が絶妙で張り詰めてたいろんなものが弛んでいくような気分になる.
元々の特技なのか,奈々子ちゃんがいるからなのか,学童のバイトで手馴れているからなのかわからないけれど,何だが凄く安心する.
「落ち着いたか?」
「-………ん」
「よし,ならアレ食べに行くか」
ほだされるもんかと思うのに,最終的にこうなってしまうのはあいつがさりげなく俺の腕をつかんで引っ張っているから.
何にも知らない顔をして,どうして何時も俺の一番望んでいることをするんだろうこいつは.
提灯の明かりが赤くて良かった.辺りが暗くてよかった.じゃないと顔なんて上げていられない.
「ところでアレってなんだよ?」
手首からあいつの冷たい体温を感じながら聞くと
「さ? なんだろ? 俺も知らない.食べ物だとは思うよ」
楽しそうな声が返ってきた.
「なんだよ知らないのかよ」と軽口を叩けば笑った振動が手を通して伝わってくる.
「先輩方こっち,こっちっすよ!」
前方から完二が俺らを呼ぶ.
二人きりの祭りは来年絶対に行くとして,今はこの手のぬくもりがあればそれでいいや.
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*自分で墓穴掘って,墓穴にはまってぐるぐるする花村(それが花村だと思ってます)と,なんでかはしらないけどとりあえずぐるぐるしてる花村を落ち着かせようという主人公と,どれも全くわかってなくてとりあえず先輩と食べ歩きしたい完二を書いたらこうなりました.完二可愛いよ,完二.思えば私は敬語キャラを始めて描いたかもしれない.敬語攻めも好きなんですけれどね.オトメン敬語攻めなんて新しすぎるよ完二.ん~,好き!(@ペルソラ緑川ボイス)
*完二はこー,言葉で言われない限り他人の感情とかに鈍いと思ってますが,あながち間違ってないと思います.良くも悪くも芸術肌というか,あまり気にならないたちというか…だからストレートに気持ちが悪いとかいわれたら傷つくんだと思います.嫌われるとか考えてないからさ,思いもしてないからさ多分.
*花村は逆にそういうのにめがっさ敏感なタイプなんじゃないかと思います.学校という小社会の仕組みを完全に理解しきってる彼ですから,そういうのに聡くないと生き残れないしあんなシャドウにならないんじゃないかな.
*主人公は運動部コミュ(サッカー)で自分がみんなに敵視されていることすら気づかなかったので,自分に対しての敵意や好意にはやたら鈍そうです.気持ちが悪いや嫌いですといわれてもそれを受け入れることができるだけの寛容さを持ち合わせているので無敵.ただ,他人への攻撃は自分のそれよりも強く反応して感情をあらわにするところが好きです.
*とにもかくにもP4の少年たちはみんなかわいい! この一言に限ります.
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