花→主 (片思い)
私の中の花主は基本こんなんばっかです(笑)
ああ、俺こいつのこと好きだ。
それまでの感情を言葉として認識したとき、一番最初に思ったのは「マズイ」というそれだった。
無色×灰色
平日の5限。昼食を胃に入れたすぐ後というのに科目は体育。普通の授業以上にだるいのは俺だけではないはずだ。
弁当なんて腹八分目にしかならない学生だからこそ成し遂げられる強行スケジュールに、先生達からは異論はなかったのだろうか。
取りあえず、俺たちの目の前に立ってハキハキとした調子で為になるのかならないのかよくわからない説明をしている体育兼英語の教師は、時間割に対して特別な感情を持っていなさそうだ。
俺は始まったばかりというのに,つまんねー体育なんて早く終わんねーかなと思いつつジャージに着替えたあいつを盗み見る。灰色の髪、瞳。長い前髪で隠れてしまっているが睫毛も色素が薄く灰色をしていることを俺は知っている。学ランはどんなに寒い日でもあけているくせにジャージはきっちりしめていて、腰とかが余計に細く見える。
なんつーか、エロい。
よくいえばセクシーだ。
でも、見た目すらっとして細身であってもテレビの中じゃ大剣を振り回しているだけあって作りはがっしりとした男だ。
そう男。
俺の隣に立って、真面目に話を聞いているのか聞いているふりをして放課後のこと(テレビのこととか、夕飯の献立なんか)を考えているのか,読めない表情をしているこいつは女でなければ、クマのような美少年でもなく、可愛いとよりもかっこいいという形容が似合う男なのだ。
わかってる。
それはちゃんとわかっているんだ。
なのに俺は…。
「花村?」
小首を傾げて心配そうに顔を覗き込んでくるこいつを堪らなく可愛いと感じてしまう。
もうホント、どうしようもない。
「え? あぁ、なに? 説明終った?」
「うん。今日はサッカーだって」
「それはまたエネルギッシュな…」
「花村」
「ん?」
辺りを見渡すとがらんとしていた。他の生徒たちは準備運動がてらランニングに行ってしまったようだ。だらだらしている俺らに先生から激が飛ぶ。
「こらぁ、そこ何やってる! いいか、団体行動ってのはなあ…!」
「すんませーん、今行きまーす!」
そのあとの台詞はほら行こうぜでも、ちくしょーだりぃなぁでもなんでも良かった。
なんでもよかったはずなのに、一度外した視線を元に戻したとき、そういった当たり前の台詞が頭の中から吹き飛んでしまった。
「花村」
落ち着いた声が俺を呼ぶ。
たったそれだけのこと。なのに動けない、動かない。
真剣な瞳に射ぬかれて、灰色だけが世界に溢れているんじゃないかとすら思う。
消える色、音、人の気配。
世界に残るのはお前と俺の存在のみ。
楽園を追放されたアダムとエヴァのように二人きりになったとき、俺の悩みは意味のないものに変わるのだろうか。
「体調悪いなら保健室で休んだほうがいい。昨日ちょっと無茶しすぎたから」
あいつといえば俺がそんな俗物的なことを悶々と考えているとは想像もしていないようで、でも様子がおかしいのは何となく察して心配そうに労るように言った。
無茶をしたのはお前も一緒なのにな、このお人よし。
「俺があのくらいでへばるとでも思ってんのかよ」
「そういうわけじゃない…でも今日は朝から様子が変だ」
「変て?」
「ぼんやりして、上の空というか…」
「そんなん何時ものことだろ。気ぃつかいすぎだって、今からんなだと将来ゼッテー禿げるぞ」
へらへら笑って軽口を叩いて覆い隠す。
ぼんやりしてるように見えるのはお前のことを考えてるからだよ。
上の空なのはお前が俺のことどう思っているのか気になるからだよ。
自分に嘘をつかないと決めたところで、こいつに嘘をつきたくないと思ったところで,んなこと言えるわけないだろ。
言ってお前に嫌われるくらいなら、俺はお前に嘘をつく。
俺が今まで学生生活で一番力を入れて伸ばしてきた技術。
笑ってごまかして流す。
お前以外の奴に対してとても簡単な、慣れた作業。
「心配してくれるのは嬉しいけどさ、体調とか問題ないし。心配なら見せてやるよ,俺の黄金の右足!」
それを、俺の心の一番汚い部分を知っているお前はいい顔しないだろうけど、優しいお前のことだから全部知ってて最後には
「………あまり無理するなよ」
困ったように笑いながら言うんだろ?
「それはこっちの台詞だって。行こうぜ、相棒!」
言葉にならない微妙な変化。
お前は気付かない不確かなものに俺は気付いちまった。
ただそれだけのことなんだ。
聡いけど変なところで疎いお前は知らなくていいことだ。
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