[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
Let the chips fall where they may. 04
「次の議題に移ります」
行政特区日本の中核にある議事堂で,今日もまたお馴染みとなった面々と顔を合わせながら特区の行く末についての議論をしていた.
3日.
最後に見舞いに行ってから3日が過ぎた.
その頃はまだ左腕から点滴が打たれていたが,昨日様子を見に行ったカレンや扇の話によると点滴は取れ,後は安静にしていれば問題ないとのことだった.
それでも心配であることには変わりない.
出来れば毎日顔を見に行き,顔色を見たい.
ライは体調が悪くてもいいといい,熱があるときでもないようなそぶりを見せる.
カレンや扇に隠すことなど造作もないだろう.
騎士団時代も訓練時にナイトメアの中で倒れていたという話を耳にしたことも一度や二度ではない.
藤堂ら四聖剣が過剰に心配するのもそこにある.
軍人たるもの自己管理くらい出来ないでどうすると,食べ物を食べさせようと奮闘しているところも何度も見た.
「ゼロ,これについてはどうお考えですか?」
ライは自身の体調に無関心なところがあり,未だにあばらが見えるほど細い.
病院食を毎食口にしているといってもカロリーは最低限に抑えられているだろう.
騎士団にいた頃よりもまた細くなっているのは目に見える.
だいたい,あんなに細くて何処から力と体力が出ているのかはなはだ疑問だ.
ラクシャータの言っていた身体をいじられたことに何か関係があるのかもしれない.
バトレーめ,ライをモルモットのように扱い報い,いつか受けさせてやる.
記憶が戻ったともライは言っていた.
だが,深い話は聞けないままでいる.
ライ本人が話したがらないわけではない.
聞けば話してくれるだろう.
ただ,時間がないのだ.時間が.
「ゼロ」
ゆっくりライと会って話を聞く時間がとれない.
何よりも優先すべき相手ーナナリーは別としてーにも拘らず,身体は議事堂に拘束され,特区の中から出れないでいる.租界に行くなどもっての他だ.
担当医からゼロは病院内に入るなといわれた手前,ルルーシュ・ランペルージの姿で見舞いに行かなければならない.
だが,ルルーシュ・ランペルージの姿で特区から出るわけにも行かない.
そんなことをしたらゼロの正体がばれてしまう.
一人きりになり,自由に動ける時間が必要だ.
1時間や2時間じゃない,丸々半日…いや,それ以上か…….
『彼は良く似ている』
あの時,医師はそういった.
誰に似ているとまでは聞くかなかったが,あの,黒の騎士団に対する態度と合わせるに,恐らく黒の騎士団によって別離せざる終えなかったものと重ねているのだろう.
少なくとも,ライに興味を持っていたのは明らかだ.
興味を持ったついでに,ライの個人IDを調べるかもしれない.
IDだけならばイレブンだと言い訳ができるが,血液を調べられればそれだけではない事実が露見していしまう.
もしかすると,ライの失った記憶が医師と何かしらつながっているのかもしれない.
そう,例えば………
「ゼロ!」
「何だ」
「先ほどから何度もお呼びしている! この件に関して貴殿の意見が聞きたいと再々申しているのに貴殿ときたら上の空この上ないとはどういうことか!」
顔を真っ赤にして白い紙を叩く老人に顔を向ける.
京都六家からの推薦で議員となった男だ.
頭の回転は速いが,感情的になりすぎるきらいがある.
今もそうだ.
大声で怒鳴れば誰もが己に屈服するとでも思っているのだろうか.
短絡的な思考,前時代的な人間だ.
此処で論破しても構わなかったが,論議とは関係のないことに思考を向けていたことに変わりない.
大人しく手元に配布されているプリントの印字を読む.
特区の分類,地域整備の優先箇所についての議題だった.
そう,経済特区日本として独立したとはいえ,気を緩めるにはまだ早い.
議題の内容はもとより世界との関わり合い,特にブリタニアとの関係についての方向性を早急に決めなければならない.
他にもやるべきことも話し合うことも考えることもいくらでもある.
個人一人に現を抜かしている暇はない.それよりも他にやるべきことは幾らでもあるのだ.
だが,しかし……
「まぁまぁ,そうおっしゃらずに.そろそろお昼時ですし,少し休憩を取りませんか? 皆さんも毎日の公務でお疲れでしょう?」
「しかし,ユーフェミア様! 今はそう暢気に構えていい状況ではないのです! 早急に決めなければならないことは幾らでも!」
「わかっています.けれど疲れた身体で話し合っていてはいい案も浮かばないと思いません? 英気を養うことも私は必要であると思います.ゼロもそう思いませんか?」
穏やかに微笑んで
ユーフェミアがこちらを見る.
幼い時に良く見た純真無垢な笑顔だ.
寂しい思いをしていたナナリーを支えてくれた笑顔は,今も変わらず此処にある.
好きだった.とても.
彼女の優しさが,人を労わる慈しみさが出ている笑顔がとても.
けれどそれはもう,昔の話だ.
今はその笑顔がただまぶしく,何の気概もなく向けられるそれを見るたびにいたたまれない気持ちになる.
彼女共に歩んだ道は違ってしまった.
そしてそれは寄り添うことはあっても交わることは二度とない.
「私の心配なら無用ですよ,ユーフェミア」
「ゼロ,貴方の心配はしていません.貴方は強い人ですもの.でもそれは支えてくれる人がいてこそ.右腕の彼のことが心配でたまらないのでしょう?」
「ライのことですか.心遣い感謝しますが,順調に回復していると報告を受けています」
「相変わらず頑固者ですね」
「貴女も人のことが言えるとはとても思えませんが? 誰もが不可能だと思った経済特区を成立させたんですからね.だが,それだけでは弱い.直ぐに潰されることは目に見えている.ブリタニアか,中華連邦か.どちらにせよ早急に対応を練る必要があるのは事実ですよ」
「では,その案をまとめるのが今日のゼロの宿題にします.私たちは私たちで特区の中の話し合いを進めるというのはどうでしょう?」
「ユーフェミア,此処は学校では………」
「決めちゃいました!」
「は?」
「特区の総督である私が決めたことには従わなくてはなりません,ゼロはライさんのお見舞いに行って,そこで宿題をすること! 皆さんもそれでよろしいですね」
よろしいはずかない.
議員たちの心の声が聞こえてくるようだった.
だからといって誰も口に出さないのはそれを言ったのがユーフェミアであるからに他ならない.
お飾りの皇女殿下.
以前はそう言われ続けていた彼女だが,特区成立以降その評価も覆しつつある.
短絡的思考で夢見がちではある.
だが,夢を形にする力がユーフェミアにはある.
誰もがそう思い信じていた.
それが特区の力となる.
「………….わかりました,ユーフェミア.直ぐに戻ってきますが,貴女もあまり無理なさらずに」
「私は平気です.皆さんがついていてくださりますから.それに,スザクも」
「そうでしたね.貴女には心強い騎士がいらした」
「あら? それは私だけではないでしょう? 貴方にもいるじゃありませんか」
ユーフェミアが誰のことを言いたいのか直ぐに察しがついた.
仮面の中で笑うだけで席を立つ.
これ以上言葉は不要だった.
時間が出来た.
許可もでた.
ならば行くべきことは,するべきことはただひとつ.
To be continued...