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2008.04.27 Sun 「 Let the chips fall where they may. 03LC 長編
前回の続きのお話です.
*ルルーシュは一切出てきません.ライとオリキャラだけが絡んでいるお話となっております.苦手な方はご注意ください.

暇だ.
病室の天井をぼんやり眺めるのも,病室の小さい窓から外を眺めることにも飽きてしまった.
今までが忙しすぎて自由な時間を与えられることがほとんどなかったので,こういうときにどうやって時間を潰せばいいのかわからない.
騎士団で時間が空けば学校へ,学校で時間が出来れば騎士団へ行くという二重生活をしていたため,騎士団にも学校にも行けない状態は辛かった.
することといったら白い天井や,壁,窓を見て,思考にふけることしかないが,余計なことばかりを考えてしまい気が滅入ることのほうが多かった.


Let  the chips fall where they may. 03


特区はうまくいっているのだろうか.
目を覚ましたときに座っていたゼロ,もといルルーシュは特区は無事ユーフェミアの手によって宣言され,成功を収めたといっていた.
だがそれは始めの一歩に他ならない.
これからルルーシュとユーフェミアそして日本人から選出された官僚-これは恐らく京都六家で構成されるだろう-との話し合いで特区をどういった方向で成り立たせるのか考えていく必要がある.
幾らユーフェミアが第3皇女の地位にあった方でも名を返上した今,ブリタニアが特区を攻め入る理由がないようには思えなかった.
今は東の端のエリアで行われている小さきこととして認識され,それよりもEUを黙らせるほうに忙しいようだが,何時その矛先がこちらに向けられるか知れない.その前に特区はそうなったときのための対策や作戦,法整備,国と国とのパイプをしっかりと積み上げていかねばならないだろう.
一番近い中華連邦とはまず友好不可侵条約を結ぶ必要がある.ラクシャータ関係でインドとも友好関係を築ければよりよい.
故に,ゼロの腹心である自分がこんなところで寝ている暇など本来はないはずなのだ.
その証拠にここ3日ルルーシュは顔を出していない.カレンや扇も顔を出したとしても直ぐに帰ってしまう.皆忙しいのに無理に時間を作ってきてくれるのは嬉しい反面,大変申し訳なくなる.
会いたい.
でも無理してほしくない.
アンビバレンツな感情が頭と心の中をぐるぐるする.

「まったく面倒なギアスをかけてくれたものだ」

目を覚まし,混乱している隙にルルーシュがかけた絶対遵守の力は【怪我人は大人しく寝ていろ】というものだった.
怪我があるうちは寝ていなければならない.
散歩にもリハビリにもいけなくて,毎日時間だけが過ぎていく苦痛.
やることがあり,やれる自信もある.
だが身体が言うことを聞かない.
そのことがもどかしい.

「ライ君.入るよ」

大きくため息をついているとドアがノックされて答える前に開かれた.

「ドクター.珍しいですね,こんな時間にお見えになるなんて」

訪問者を見上げれば,見知った顔の担当医だった.
年は租界一といわれている割には若い.恐らく30代であろう.
生粋のブリタニア人であることの証明のような金色の髪,そして澄んだブルーの瞳.
よくそんな人が,黒の騎士団の制服を着用した怪我人はもとい,ゼロを受け入れたなと会うたびに思う.
恐らく,租界にある有名大学病院には数多くのブリタニア軍人が運び込まれ,命を落としていったのだろう.
それを怨まないでいられるだろうか.
ゼロを,そして自分を……答えは否なような気がする.
気を逸らすように傍らにおいてある時計を見る.
定期健診の12時には程遠い時間.
何をするために此処に来たのだろうと,再び医師を見上げた.

「その時計可愛らしいね.誰かからの贈りものかい?」

「時間がわからないと不便だろうからって頂いたんですけれど,時間がわかってもわからなくても暇だということに変わりありません」

「女の子?」

「え? あ,はい.同級生の子です」

「仲いいんだ?」

「悪くはないと思いますが……….ドクター,何をしにいらしたんですか? 世間話をするためではないんでしょう?」

「世間話をするために来た,といったら君はどうするかな?」

「ご冗談を.僕はドクターを満足させることの出来る知識を持ち合わせていませんよ」

「知的欲求のために君と会話がしたいわけじゃないよ」

「じゃあ,何のために?」

「理由が必要かい?」

「僕とドクターが患者と医師という関係上,理由は必要だと思います」

ドクターは患者に向けるそれとは違う笑みを浮かべてベッドの脇にある椅子に座った.
許可を求めなくても座るという行為に慣れている.

「此処,座っても構わないかい?」

そして,座った後に許可を求められるのにももう慣れた.
本当は座っていて欲しい人はいるのだけれど,此処にはいない.
断る理由はどこにもなかった.

「見てのとおり今日はまだ誰も来ていませんし,午前中は皆忙しいので構いませんよ」

「誰かが来たら即座にどけといっているような口ぶりだね」

「そう聞こえたのならそうなのでしょう.それより話をそらさないでください」

「何の話だったかな?」

「…………」

不毛なやり取りだ.
毎日ではないが,顔を合わせるたびにこういったやり取りをしている気がする.
この医師は掴みどころがあるようでまるでない.
いつもこうやって簡単に煙き,僕の知りたい情報を教えてくれないのだ.
今までそういう人物に会ってこなかったわけではない.
ラクシャータやディートハルト等はその類の人間だろう.
二人とも頭の回転が速く容易にその姿を曝してはくれない.
ディートハルトはゼロにだけは例外で,外聞も何もなく信者のように付き従っているが,僕に対しては鉄壁のようなバリケードを張る.バリケードを張った奥で銃を構え,僕が壁を傷つけでもしたら一斉射撃をしてくるような気配すらある.
けれど,この医師はその二人とはまた違う空気を持っていた.
実態の掴めない雲というよりは,海を漂うくらげのような.
そこに確かにあることはわかるのに,近づけは刺され,掴もうとすれば感触だけを残してすり抜ける.
医師は時計の脇においてあった本を膝に乗せ,興味あるのかないのかわからない表情で眺めた.

「君は私のことが嫌いかな?」

本から視線を外すことなく,そして本とはまったく別の話をする.

「嫌いではないですよ.僕を救ってくれた人ですし」

「なら好きかな?」

「…………何を言わせたいんですか?」

「この本は誰が?」

またはぐらかされた.

「友人です.時間が出来るのならこのくらいの文学小説は読んでおけと」

「君は読書が嫌いなのかい?」

「いえ.時間がなくて読む機会がなかっただけです」

昔,一国の皇子であった頃は城にある書庫に何日も篭って本を読んでいた.
ただ,それは戦術的なものばかりで生粋の文学小説とは縁遠かった.
思えばあの頃から人を殺すための方法ばかり考えている.
ルルーシュが持ってきた本はそういうものとはかけ離れた寓話や童話を集めたものだった.
文法が多少変わり読みにくいところも数多くあったがそれでも問題なく読み終えることが出来た.
ルルーシュがこの機会に何か本を読むといい,と言ったときもう少し小難しい哲学書や歴史書を持ってくるものだと思ったのだが,林檎を食べて窒息死しかけたお姫様が王子のキスで意識を取り戻すお話や,12時に魔法が解けて召使に戻ってしまう女の子の話が沢山載ったものを持ってきたのは正直以外だった.
ルルーシュにしては可愛らしい選択だと思わなくも無い.
けれど,そこにルルーシュのわかり辛い優しさを感じて心が温かくなる.
人殺しのことばかり考えなくてもいいんだと,言われているようで.
僕のことを考えてくれた彼の気持ちが,本当にうれしい.

「時間がなくて…ね」

「…………」

あからさまに何か含んだような物言いに,心が温度を下げ,知らず身体に緊張が走る.
たわいもない午前の穏やかな空気が一気に張り詰めた.
医師が文字をたどっていた顔を上げる.
その張り付いた笑顔に第一級警戒態勢を教えるブザーが頭の中で鳴った.
思考で考えるよりも本能がこの男は危険だと叫ぶ.

「そんな怖い顔をしなくてもいいよ」

「誰がそうさせていると思っている」

「私かな」

嬉しそう笑いながら本を閉じ,ゆっくりと足を組み替えた仕草が医師が持っている余裕そのものに感じられた.
神経を逆なでする方法を心得ているような態度.
やはり只者ではない.

「…………」

「本気で怒らせてしまったかな? 童話や寓話以外に以前はどんな本を読んでいたのかなと思っただけだよ」

「それだけとはとても思えない」

「なら,黒の騎士団………」

「……………」

「の活動で忙しかったのかなと思ったんだよ.人殺しでね」

ゆっくりと伸ばされた手.
それを振り払うことは出来なかった.
瞳が奪われ,視線を外すことができない.
薄いブルーの奥にある淀んだ悲しみを見てしまったから.
その目に,ある一人の少女を思い起こしてしまったから.
全身で悩んで笑って,恋愛をしていた赤毛の少女.
ナリタ山で,父親をなくしてしまった後のあの子の目にそれは良く似ていた.
失った人への悲しみ.
失わせた人への憎しみ.
そして答えなき問いを繰り返している.
何故,どうして,愛するあの人が死ななければならなかったのか.
白く細い指が首にかかる.
身体は動かない.
否,動かすことができなかった.
リスクを背負ってやってきた.
スザクのいう間違った方法で,僕たちは多くの人の命を奪われ,奪ってきた.
そして,これが起こした行動の結果というのなら,不服や不満など無く受け入れよう.
ゆっくりと瞳を閉じて審判を待った.
それで貴方の気が済むのなら.
それで貴方の世界が色づくのなら.

To be continued...

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