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それを聞いたとき.呼吸が一瞬止まった.
瞳孔が開き,全身の筋肉が張り詰めるのを感じた.
緊張からか,焦りからか額に嫌な汗が浮かぶのに,体は震えるほどに冷えている.
『彼』は今,なんと言った?
深いグリーンの瞳の奥に偽りを探そうと覗き込むが,視点が定まらない.
「………うそ……だろ…?」
視界と頭と心が別々に動いて,考えがうまくまとまらず,ありきたりな否定の言葉しか出てこない.
動揺していた.
言葉にじゃない.
それを口にした『彼』に対して動揺していた.
今,目の前にいるのが『彼』でなかったらここまで乱れることもなかっただろうに.
「turn 3.24 01」
「………ナナリーを,エリア11の総督にする,だって?」
先ほど伝えられた言葉を確認するために繰り返す.
信じられなかった.
信じたくなかったという方が正しいのかもしれない.
スザクがそんなことを言うなんて思っていなかったのだから.
けれど,どんな否定も願望もたやすく打ちのめされてしまう.
スザクは深いグリーンの瞳を揺らすことなく,動揺する僕に構うこともなく聞きたくもない言葉を続ける.
「それでゼロ…ルルーシュを誘い出す」
「正気か?」
「…………」
スザクは何もいわなかった.
嘘であってほしいと,品のない冗談であってほしいという思いをスザクは答えないことで答えた.
無言は肯定を意味する.
どこまでも冷たい瞳の中に,抱いていた希望がないことを悟ったとき,内から溢れてきたのは怒り,それだった.
「…………僕は反対だ」
声に含んだ怒気を隠そうとは思わなかった.
腹の底から這い上がるような低い声.
握り締めた拳が震える.
感情をうまく抑えられない.
顔色一つ変えずに残酷なことを言うスザクがわからない.
目の前にいて,こんなに近くにいるのに,スザクが何を考えているのが全くわからなかった.
一旦顔を下げ,息を吐き,再び顔をあげる.
探るような視線は捨て,スザクを睨み付ける.
「そんなこと,認められるわけない」
「決まったことだ」
「決まったこと…だと? 君はそれを告げられて何も言わなかったのか!?」
「皇帝陛下の勅命だ」
「それでもだ.スザク,そのやり方はルール違反だとは思わないのか? ナナリーをゼロを釣るための餌にしようだなんて,どうかしてるとしか思えない」
「ゼロじゃない,ルルーシュだ」
「なら尚更だ.君も知っているだろう,ナナリーがどれだけルルーシュの身を案じてきたか.この一年ルルーシュがどうしているのかと聞かない日はなかったんだぞ.スザクだって一緒にいて,ずっと見てきたんじゃないのか.それともユーフェミア様とゼロの影を追いかけて何も見ていなかったのか?」
「…………っ」
詰め寄って胸倉を掴んだ.
息苦しいはずなのに,スザクはラウンズに入ってからするようになった人を寄せ付けないような冷え切った目を僕に向けるだけだった.
反論も,言い訳もしない.
気に入らない.
枢木スザクは,こんな男だったか?
「記憶が戻ってなかったらどうする? ルルーシュの口から妹なんていない言わせるのか,聞かせるのか.ナナリーが傷つくことがわからないわけじゃないだろ」
「僕はナイトオブラウンズだ.陛下の命令にのみ従う.ライには悪いけど…」
「悪いのは僕じゃなくて,ナナリーだと言っているんだ!」
スザクがゼロを皇帝陛下に差し出してラウンズ入りをしたのは知っている.
ユフィを殺したゼロを憎んでいることも,そのゼロの正体が親友と呼び合ったルルーシュであることも知っている.
だからこそ,スザクはゼロを憎み,ルルーシュを憎んでいるのはわかる.
裏切られた.
何もかも.
信頼も,友愛も,過去も,未来も.
全て裏切られたのだ,憎まずにはいられない.
それはわかる.
わかるが,それとこれとは話は別だ.
「僕は絶対に反対だ.ナナリーを駒にするような真似,するつもりも,させるつもりもない」
「ゼロがいたらエリア11はまた戦場となってしまう.僕はこれ以上あそこで戦いを起こしなくないだけだ」
「だったらナナリーと関係ないところでやれ.ナナリーを巻き込むな」
「一番効率的な手段だ」
「…………っ!」
かっと血が上るの感じた.
気づいたときには,スザクを殴っていた.
抵抗する気がなくて避けなかったのか,それとも避けきれなかったのか,大人しく殴られたスザクは頬を赤く腫らし,微かに顔をゆがめた.
「ああ,そうだな! 一番効率的で合理的な判断だ.感情を忘れ去ったブリタニアの腐れ軍人がよくするパターンだよな.人を人とも思わない.人の思いを無視して自分の快楽だけ求める.スザク,君は違うと思っていたのに欲にかられて魂まで売ったのか」
ショックだった.
人を殴って痺れる拳にもう一度力を入れる.
ナナリーを駒とすることに何の躊躇いを持っていないスザクが目の前にいることが何よりもショックだった.
ユフィの形見だと,羽ペンを大事に持ち歩いているあの,優しさはナナリーには向けられないのか.
ルルーシュがゼロだったから,ナナリーはもう,どうでもよくなってしまったのか?
そんなことあるはずない.
今だって,昔だって,スザクはナナリーのことを大事に思っていたはずだ.
本当の妹のように可愛がって,大事に大事にしていた……はずなのにどうして?
こんなのはスザクじゃない.
ギリッと奥歯をかみ締める.
僕の知っているスザクなんかじゃない.
「君が皇帝の命なら従うというのなら,僕はナナリーの騎士として彼女を守るだけだ.誰であろうが彼女を傷つけさせはしはしない.たとえそれがスザク,君であったとしても」
「それこそナナリーを傷つけることになるんじゃないかな?」
腰に挿してある騎士の剣に手をかける.
スザクも今度は黙って殴られるつもりはないようで,全身から殺気を出して睨んでいた.
「…………」
「…………」
君がその道を選ぶというのなら,僕は君を傷つけても止めるまで.
僕はルルーシュじゃないから君が別の道を進んでしまうからとあきらめたりはしない.
力でもって引き戻す.
静まる.
音,空気,そして殺気.
一瞬の間があって,僕たちは踏み出した.
To be continued...