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2008.05.03 Sat 「 1000hit~8000hit 御礼小説 03LC 御礼企画
前回の続きです.
半分に切ろうと思ったのですが,切りどころが見つからなかったのでとてつもなく長くなってしまいました.
すみません;
さらに言うのであれば,この回だけ読めばいい感じになっています.
序論・本論・結論 で言うところの本論の全てなので(笑)
なんか,構成が論文のようですね.い,今更ですが;

皆さんが楽しみにしておられるコスプレ喫茶に少しでもなっていればと思います.


廊下を歩く。
生徒会室に向かって、一心不乱に、ただ、ひたすらに、履くのも脱ぐのも歩くのも困難なブーツで歩く。
袋の中に入っていたのは、白が主体のワンピース。
ゴシック調のデザインで、ダークブルーのレースがそこかしこについている。
胸のボリュームを出すために編み上げられた紐、丸みを帯びさせるためにエプロンから伸びた白い紐が、腰で大きなリボンとなっている。
この服の問題点は、これが女性の着用するものであるのと同時に、裾が膝より上にあることとパニエを着用すること、更には、背中が丸見えになっているところにある。
憂鬱になる気分と戦いつつ、少しでも気が紛れるように学園祭でルルーシュが純白のウエディングドレスを着用していたことを思い出しながら俯き、歩く。
あのときのルルーシュも同じ思いだったのだろうか。
あれだけ似合っていれば逆に開き直れると思うが…。
長い人生で二度目となるタイツ。
ご丁寧にドレスとおそろいのチョーカーと、ヘッドドレス、そしてかるくウェーブのかかった銀髪のウィッグも用意されていた。
徹底している。
完全なる変装のおかげで誰なのかわからなくなることだけが、唯一の救いである。
だが、学園祭の真っ只中にあるにしても、どこからどうみても異様な格好をした僕は人目につくらしく、ここに来るまでに何人もの輩からナンパされ、お互いにとってとても不名誉な経験もした。
これ以上、僕のみならず他の男子諸君のハートを傷つけるわけにはいかない。
見慣れた扉を押し、開ける。
「リヴァル! 僕の服をかえしてもら」
「キャーーーーーーーー!」
「は?」
扉を開けると、耳をつんざくような悲鳴が飛び込んできた。
それと同時にわらわらと女性徒が寄ってくる。
此処は生徒会室のはずではなかったか?
「生徒会のメンバーなんですか!? 」
「銀色の髪……あの、噂の幻の美形!?」
「え、うそ! 何時退院したの? そんな話聞いてないよ!」
「肌きれーい。すっごい美人! 綺麗、かわいー!」
「やーん。メイドさんが来るなんて会長、一言もいわなかったじゃないですかぁ!」
「……………」
なんだ?
何が起きている。
意味がわからない。
一度教室から出て、部屋の前にかけられているプレートを見上げる。
部屋は間違っていない。
生徒会室だ。
しかし、先ほどまではまったく視界に入ってこなかったが、扉の前に小さな白い花が飾られたボードが置かれていた。
それには、今朝方みたばかりのミミズが這ったような文字で、『コスプレ喫茶 Un lieu pour l'amour murmure ~愛をささやくための場所~』と書いてある。
コスプレ………コスプレ…どこかで聞いた言葉だ。
そう、この前の学園祭でルルーシュと一緒に女装させられた店もコスプレ喫茶、そういっていなかったか?
それと同時に、昨日ミレイさんがとても良い笑顔と共に言っていたことが頭の中でエコーをかけて繰り返される。
“明日は今までの分も含めてしっかり働いてもらうわよ………”
どう考えても、個人的に楽しむだけの衣装だけではないらしい。
すっと顔が青ざめていくのがわかった。
「ライ……なんて格好をしているんだ」
「ライさんもいらっしゃるのですか?」
ともすれば失いそうになる意識をぎりぎりのところでとどめたのはアルトテノールの声だった。
救いを求めてそこに視線を投げると、ルルーシュとナナリー、それと咲世子さんが一つのテーブルを囲んでお茶をしていた。
手放しで喜んでくれるナナリーにつかの間の安息を求め、円になる女生徒たちの群れから抜け出した。
「ルルーシュ、なにが起きているんだ?」
「いつもの会長の手の込んだ気まぐれだよ。生徒会室を喫茶店にした出し物をやるらしい」
「会場時間はまだ先じゃないのか?」
「予約制ということになっているんだが、チケットを貰えなかった生徒たちが来てね。リハーサルになるだろうってことで、会長が入れたんだよ。内装も手伝ってもらった」
内装と聞いて改めて部屋の中を見渡す。
部屋の中央に置かれていたデスクは取り払われ、白いクロスのかけられた丸テーブルがいくつも置かれていた。
各テーブルの中央にはボードにも飾られていた花が花瓶に活けられている。
なるほど、割と本格的なのかもしれない。
窓は開けられ、テラスに抜けられるようになっている。そこにも室内と同じテーブルが置かれていた。
朝の爽やかな風が室内に流れ込む。開放感、清涼な雰囲気、悪くない。
だが、腑に落ちない。
ルルーシュに向き直る。
真っ白なカッター、黒のネクタイにベスト、そして長いエプロン。
ストイックなルルーシュの雰囲気によく合う服装である。
はっきりいってかっこいい。
女装をすれば美人なのに、こういった服装もとてもよく似合う。
癪だ。
ものすごく、癪だ。
「なんでソムリエなんだ」
「?」
「どうして僕がこれで、ルルーシュがソムリエなんだ!」
「お、おい、ライ…」
「ミレイさんはどこだ、抗議してくる! 僕がこんな格好させられるんだったらルルーシュだって同じ格好をするべきだ!」
「な……っ! どうしてそうなるんだ!」
「ライさん、ライさん」
「あ、すまないナナリー、折角のお茶の時間を邪魔してしまったね」
「いえ、そうではないんです……」
「そう思うのなら騒ぐのをやめたらどうだ。それと足を開くな、はしたない」
「…………」
この男は…。
イレギュラーなことが降りかかると断然弱いくせに!
昨日、ちょっと泣きそうな顔をして「いなくならないでくれ」なんてお願いしたくせに!
ウエディングドレスがすごくよく似合うくせに!
自分に余裕があると本当にたちが悪い。
今更ながらにあの時、シャーリーに写真を撮ってもらっていればよかったと悔やまれる。
ナナリーの前で再び騒ぐことは憚られ、頭に浮かぶ言の葉をぐっと飲み込む。
視線を感じてそちらを見れば、ルルーシュがまじまじと僕を見ていた。
「? なんだ?」
嫌な予感と共に逃げ腰になりながら聞く。
無言の間があり、ルルーシュが不遜の笑みを浮かべ、言った。
「よく似合っているじゃないか、自信を持っていい」
やっぱりそうか!
「その言葉を言われてどんな気持ちになるかわかっていっているだろう」
「褒めているんだ」
「嬉しくない!」
「お兄様、ライさんはいったいどのような衣装をお召しになっているのですか?」
「…………っ!」
楽しそうに笑っているルルーシュを歯軋りしながら睨んでいたら、愛らしい声が飛び込んできて固まった。
無邪気に笑っているナナリー。
いつもほんわか暖かな気持ちにさせてくれるそれが、今は痛い。
「? どうかしましたか? お兄様はソムリエさんの衣装を着てらしているんですよね。ライさんは? バーテンダーさんの衣装などですか? お兄様はとてもよく似合っているとおっしゃっていましたけれど…」
「あぁ、とても似合ってる。ライは男女逆転祭りに参加していないから、写真がないって会長が言ってね。だから女装してもらってるんだよ」
「しゃ、写真なんて撮らないぞ、僕は……!」
「わーっ、ライさん、女の子の格好をしているんですか? 残念です、私も見てみたいなぁ」
「…………!? 」
その場の空気が凍った。
僕はもとい、ルルーシュもそれまでの笑顔を剥ぎ取ってナナリーを困った顔をして見下ろしている。
本当にイレギュラーに弱い男だ。
僕もだけれど。
なんと返していいのか途方にくれる。
「? 皆さん、どうかなさったのですか?」
「ライ様、そのような格好をなさっているからには身も心も女性にならなくてはなりません」
「え?」
重い沈黙を破ったのは咲世子さんだった。
流石大人の女性といったところか。
動じることなく対処している。
ただ、その言葉は僕にとっての救いにはならなかった。
「それはいい考えですね。ライ、お前は今日一日女だ」
「いちにち!?」
「お前が何も言わずに姿を消したことでどれほどナナリーが心を痛めていたか知らないだろ。お前はナナリーの心を傷つけたことに謝罪をする義務があると思わないのか?」
「う………」
「話すときは女性らしく話せよ」
ナナリーのためならなんだってする男が目に殺意を宿しながら、穏やかな口調で言った。
彼の言葉の裏に隠された、言わんとしていることにすぐに察しがつく。
目の見えないナナリーのためが、耳で楽しめるように、と言っているのだ。
僕も、ナナリーの顔が曇っているのは見たくない。できれば笑っていてほしい。ナナリーが笑ってくれるためなら道化にだってなってもいい。
あの時は学園から離れることが最善の策だと信じていたが、昨夜、自室に戻る前に泣いて喜んでくれるナナリーを目の前にして、それは間違い以外のなにものでもなかったと思い知らされた。
ナナリーを不安にさせちゃいけない、泣かせちゃいけない。そういう使命感にかられる事柄だった。
ただ、ナナリーのためであり、そうする必要があると理解しているのと、いざ言葉を発するのは別物だ。
なかなか言葉が出てこない。
何を話したらいいのか…ナナリーを見て、ルルーシュを見る。
彷徨う視線。誰に助けを求めていいのかわからない。
「ライ様はメイドなのですから、まずは『おかえりなさいませ、ご主人様』からではございませんか?」
どうしようもなくなっている僕を再び助けてくれたのは咲世子さんだった。
そこまで表情が変わる人ではないのに、今は嬉々としているように見える。
とても、楽しそうだ。
「メイド? これ、メイド服なんですか? 僕の知っているメイド服というのは咲世子さんが着ているようなもので、こんなに短いスカートじゃ…」
裾のスカートを上げて首をかしげていると、横からルルーシュの手が伸びてきて「はしたない」と怒られた。
「今、租界で熱烈な人気を集めている衣装のひとつですよ。ゴスロリメイド服。実用性ではなくて萌えを追求した衣類なのです。とてもよくお似合いですよ」
「はぁ…萌え……ですか……」
言っている言葉の半分も理解できない。
「メイド服を着たものはメイドに魂を売ったも同然です! ささ、ライ様、ご主人様にご挨拶を」
「ご主人様?」
ナナリーに言うのだろうか? 小首を傾げていると、咲世子さんは僕の隣に立っている人を指名した。
「はい。ルルーシュ様です」
「ルルーシュ!?  ソムリエのご主人さまってどんな設定ですか…ルルーシュに仕えるくらいならナナリーに」
「ナナリーには咲世子さんがいるじゃないか」
「お兄様専属のメイドさんですね。お兄様のメイドさんがライさんなんて嬉しいです」
「さ、ライ様。『おかえりなさいませ、ご主人様』ですよ」
「…………」
そのときのランペルージ兄弟とメイドの鏡である咲世子さんの笑顔を僕は忘れないだろう。
どうして女性徒に絡まれたままでいなかったのか、どうして部屋を出てきてしまったのか、こんなことになるとわかっていたら絶対ランペルージ兄弟とそのメイドに近寄りはしなかったのに。
三者三様の笑顔に囲まれ、逃げ場のない僕に、道はたった一つしか残されていなかった。
最後の悪あがきで、ナナリーため、ナナリーのためだと繰り返す。
「お……おかえりなさ、いませ、ご、ご主人様……」
「わーっ、なんだか男女逆転祭りを思い出しますね!」
「よろしかったですね、ナナリー様」
飛び跳ねるように喜んでくれたナナリーを見て、何よりだと胸をなでおろす。
此処まできたら如何に自分が楽しむかに思考をシフトしたほうがいいのかもしれない。
楽しまなきゃ損だと、ミレイさんもスザクも言っていた。
「お茶が冷めてしまいましたので、淹れ直しますね。他に御用はありませんか?」
昔々の記憶を引っ張りだして、自分についていたメイドがどういう風に話していたのか、思い出す。
と、同時にどうしようもない痛みが心を襲った。
許されることのない罪。
自分の力で命を奪っていった人々。
その中に、そのメイドも含まれていたのではなかったか。
「ライ?」
「あ、いや、なんでもない…です。えと、お茶、お茶をいれてきますね」
過去の罪がこのような罰として返ってくることは重々承知している。
咎める者はいなくなってしまったけれど、その痛みに自分と戦っていかなくちゃならないと思っているから。
テーブルの上に置かれていたポットを手に取り、生徒会室と隣接されている調理室に向かおうと体を反転させた。
「……っと、う、わわ!」
身にしみた感覚は数時間で切り替えられるほど甘いつくりにはなっていない。
いつもどおりの感覚で踏み出したてしまい、靴が重く足がもつれて視界が傾いた。
踏ん張るにしてもそのための足は左右で絡まっているためにどうすることもできない。
やばい。
転ぶことへ対する対策は諦めて、手に持っているポットを割らないように高く掲げる。
受身がとれない。
「ライ……!」
名前を呼ばれる。反応する間もなく倒れこんだ。
「たたたたた、……わっ、ごめんルルーシュ!」
真っ暗になった視界から体を起こすとむせ返るほどの紅茶の香りが身を包み、目の前にはルルーシュの顔があった。
きょとんとした表情。
あわてて起き上がる。
「大丈夫か? すまない、折角の衣装を」
頭から紅茶をかぶったのか、ルルーシュの黒髪から茶色の雫が流れ落ち、カッターにいくつもの染みをつけていた。
気休めになればと、エプロンのポケットの中に入れていたハンカチで頭と顔を拭いてやる。
「………いや」
「どこかいたいところはないか? 足を痛めたとか」
ぼんやりしているルルーシュを覗き込む。
頭でも打ったのだろうか。
耳まで赤くして、右手で口元を押さえ僕を見る。
口?
転ぶときにどこかをぶつけてしまっただろうか。
そんな痛い思いをした覚えはないが…。
「お前、今………」
「え?」
「いや、なんでもない。そっちこそなんともないか?」
「あぁ、僕はなんとも。ルルーシュが庇ってくれたから」
「そうか」
ルルーシュが立ち上がり、それに習って僕も立つ。
中身をひっくり返してしまったが割ることは免れたポットを拾う。
「キャーーーーーーーー!」
本日二度目の甲高い声が生徒会室内に響き渡った。
今度は何だ、誰が来たんだと顔を上げるが入り口は閉じたままで誰も来た様子はない。
不審に思って女性徒たちを見る。
全員が全員こちらをみていてぎょっとした。
目が爛爛と輝き、うっすらとほほを染めているのは気のせいだろうか。
「き…ききき…」
「き?」
「キスしたわー! 幻の美形と副会長がキスした!」
「キス?」
それが発火材となり、生徒会室内は彼女たちの独壇場となった。
話題の中心である僕は何のことだか理解できない。
キス?
ルルーシュとキス?
いつそんなことになったんだ?
思い当たることといえばさっき転んだことだけれど…そんな記憶はまるで……。
「あ」
先ほどのルルーシュの反応を思い出す。
口元を覆って顔を赤くしていたではないか、あれは。
「ル、ルルーシュ…もしかして…」
「その話は後回しだ。逃げるぞ」
「逃げる? 何故?」
「あぁなった女子は手がつけられないからだ」
言うが早いかルルーシュが僕の手を取って走り出す。
それを女性徒の声が追いかけた。
「きゃー! 逃げたわ!」
「愛の逃避行ね!」
「どこにいくのかしら?」
「キスの感想ききたかったのにー!」
僕はといえば、事故だとしてもみんなの前でキスをしたという事実がいまさらながらに恥ずかしくなって、ルルーシュが握っているのとは別の腕で唇に手を触れた。
体の奥から熱くなる。
音も何も聞こえなくなってしまった。
遠く、スピーカーを通してミレイさんによる学園祭開催宣言が告げられた。
はじまりにしてはあまりにも多くのことがありすぎた。
これから何が起こるのか不安に思いながら、ルルーシュに引きずられるようにして走る。
けれど、そんな現状をそれなりに楽しんでいる自分がいる。
今はそれでよしとしよう。

To be continued...
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